広島高等裁判所 平成4年(行タ)1号 決定 1993年3月17日
申立人(控訴人)
河原寅次
右訴訟代理人弁護士
高村是懿
相手方(被控訴人)
広島市
右代表者市長
平岡敬
右訴訟代理人弁護士
宗政美三
右指定代理人
田原征起
外五名
主文
本件申立を却下する。
理由
一一件記録によれば、本件の本案訴訟である当庁平成四年(行コ)第四号換地処分取消請求控訴事件(原審・広島地方裁判所昭和六二年(行ウ)第七号)における申立人(一審原告)の主張の要旨は、相手方(一審被告)が施行する広島圏都市計画事業(広島平和記念都市建設事業)高陽第一土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)において、申立人は相手方から昭和六〇年一月二五日申立人の所有する数筆の土地につき換地処分(以下「本件各換地処分」という。)を受けたが、右処分は土地区画整理法八九条に定める照応の原則に反する違法なものであるから、その取消を求めるというものであり、申立人の本件文書提出命令の申立は、本件事業につき従前地の土地の評価がなされていた事実を立証するため、相手方の所持する本件事業の実施計画書(以下「本件文書」という。)を民事訴訟法三一二条三号前段又は後段に該当する文書であるとして、その提出命令を求めるというものである。
二そこで、以下、本件文書が民事訴訟法三一二条三号前段又は後段に該当する文書であるか否かについて判断する。
1 まず、民事訴訟法三一二条三号前段にいう「挙証者の利益のために作成された」文書とは、当該文書により挙証者の法的地位、権利又は権限が明らかにされるものをいい、それが挙証者の利益のためにのみ作成された場合に限られるものではないと解するのが相当である。
そこで検討するに、一件記録によれば、本件文書は、「土地区画整理補助事業の実施細目について」と題する昭和五〇年一一月一日付の都道府県主管部長、指定都市主管局長あて建設省都市局区画整理事業課長通達に基づき作成される文書であって、地方公共団体等が施行する土地区画整理事業に要する経費を国が補助する事業(公共団体等区画整理補助事業)において、国庫補助金の交付対象、補助額の決定等に資するため、国が当該土地区画整理事業計画の内容を把握する目的で施行者である地方公共団体等から提出させる文書であることが認められる。
そうすると、本件文書は、行政機関である国と地方公共団体の間において、国の行う公共団体等区画整理補助事業の適正な執行を目的として作成される文書であって、挙証者である申立人の利益のために作成された文書であるとはいえず、かつ、本件各換地処分に関する申立人の法的地位、権利又は権限が明らかにされる文書とも認め難い。
したがって、本件文書は、民事訴訟法三一二条三号前段に該当する文書ではないというべきである。
2 次に、民事訴訟法三一二条三号後段にいう「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された」文書とは、挙証者と文書の所持者との法律関係それ自体が記載された文書に限らず、右法律関係と密接な関係のある事項又は構成要件の一部が記載された文書をいい、相手方が自己使用の目的のために作成した内部文書はこれに当たらないと解するのが相当である。
そこで検討するに、本件文書は、前示のとおり、建設省都市局区画整理事業課長通達に基づき作成される文書であって、国が行う公共団体等区画整理補助事業の適正な執行を図るため、土地区画整理事業を施行する地方公共団体等から国に提出させる文書であり、申立人と相手方との間の法律関係それ自体が記載された文書でないことは明らかである。
申立人は、本件事業につき従前地の土地の評価がなされていた事実を立証するためとして、本件文書の提出命令を求めるが、一件記録によれば、本件文書には、国が公共団体等区画整理補助事業の適正な執行を図る上で本件事業の内容を把握する必要から、施行地区の地価の現況についても記載することになっているものの、その方法は、一地区につき三点以上、五ないし一〇ha毎に一点以上調査することとされていて、申立人が従前所有していた数筆の土地を含め個々の従前地の評価が記載されたものではないことが認められる。
なお、本件文書は、前示のような作成の趣旨目的及び内容からみて土地区画整理法八四条、同法施行令七三条各号により主たる事務所に備え付けて利害関係者の閲覧に供すべきものとされている書類には当たらないというべきである。
以上の諸点に鑑みると、本件文書は、申立人と相手方との間の法律関係と密接な関係のある事項又は構成要件の一部が記載された文書とまでは認め難い。
したがって、本件文書は、民事訴訟法三一二条三号後段に該当する文書でもないというべきである。
三以上の次第で、申立人の本件文書提出命令の申立は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官山田忠治 裁判官佐藤武彦 裁判官難波孝一)